2010年12月14日火曜日

少しずつ前に進む楽しみ:6回の公演を終えて

早くも年の暮れ。春に始まった平河町ミュージックスが6回まで無事終了した。2011年の春公演のアナウンスもおこなわれ、今後も3回ごとの区切りでリズムを整えながら活動を続けてゆきたいと思う。シリーズのコンセプトについての確信は持っているものの、コンサート運営については手探りでここまでたどりついた。


春の3回は、沢井一恵さんのさまざまな箏、草刈麻紀さんによる木管と声のアンサンブル、漆原啓子さんと片岡詩乃さんのデリケートなデュオと、空間の特性を身体にしみこませたうえでの研ぎ澄まされた表現が印象的だった。秋の3回でも音楽は一層奥行きを増す。笹久保伸さんのギターのひとつひとつの音色には旅の香りがあり、漆原啓子さんと瀬木理央さんの2本のヴァイオリンには多様な歌が流れては交わり、戸島さや野さんのヴァイオリン・ソロはきりりと居ずまいを正して空間と対峙していた。


そのたびに、奏でる<音>にそれぞれの<場>が色づく瞬間を目撃する幸運を得た。主役は音に違いないが、椅子もキリムも、外を行く車のヘッドライトまでも音の連なりに参加していたような。その意味では、多様な音楽をあらわす「ミュージックス」という呼び名が、多様な動きとしつらえによって音楽が成り立つものであることを明らかにすることになっていった。そこには、毎回お見えいただいていた高橋悠治さんはじめ、聴き手が過ごしてきた人生の時間までも加わっていたような気がする。もちろん、近隣の平河町に暮らす人たちの時間までも。


手探りの運営については、反省するところがいろいろとあるので、平井洋さんと一緒に知恵を凝らし、丹精こめて手入れしてゆきたいと思う。そのなかで忘れないようにしたいのは、演奏者への敬意と親愛の情である。そして、聴き手がかけがえのない時間を過ごせるようにという姿勢と。



ところで、平河町ミュージックスには、小沼純一さんの解説文にあるクオリティ、音楽にアソートされたポスターとワインの妙味、ときおりの西川純一さんの家具やキリムをめぐるトークなど、掘り出しもののような楽しみがある。週の終わりの、ちょっとしたワンダーランド。どこから入っても、また別の知らない世界への出口が見つかるような、そんなシリーズでありたいものだ。

平河町ミュージックス実行委員 佐野吉彦

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