2010年10月23日土曜日

平河町ミュージックス第四回公演 笹久保伸 「高橋悠治作品など~多種類の調弦によるギター音楽」を聴いた

演奏会は不思議な調弦による響きで、幕を開けた。
1968年から2010年にわたる高橋悠治のギター作品。
その難しく魅力に富んだ旋律を、笹久保の指先が見事にはじき出す。


「メタテーシスⅡ」、「重ね書き」に聴衆が引き込まれた頃、
ゲストの金庸太が演奏に加わり、
「しばられた手の祈り」が始まる。





さらに「ジョン・ダウランド還る」には、
笹久保のギターの音色に、高橋悠治自らが朗読を添えた。









贅沢な時間が流れる。

高橋悠治の余韻が空間に漂うなか、
笹久保が全く異なる響きを持ち出した。
3年間単身ペルーに住み、アンデスの村々を旅しながら、
音楽とペルーの人々を見つめた笹久保の「3つのペルー伝承音楽」。
静けさと激しさが交錯するペルーの人々の息遣いが、
笹久保のギターから聴こえてくるようだ。

身近にある「紙切れ」、「綿棒」、「ハサミ」をギターに付けることで、
いつもと違う音を与えた作品「プリペアドギターの為の3つ」は、
想像を超えた美しい響きを放った。

笹久保は、それぞれの楽曲の合間に、
曲目ごとに異なる複雑な調弦を行った。
調弦をしながら、笹久保が語る言葉の端々から、
音楽への真摯な思いと、その温かい人柄が滲みだし、
聴衆を笹久保の世界に引き込んでいく。

演奏会が跳ねた後、白い空間はワインの香りに包まれた。
クラシック・ギターの枠からはみ出しつつ、
ギターという楽器がもつ新たな魅力を引き出そうという、
笹久保の音楽にふさわしい名酒が選ばれた。

聴衆の輪の中で、
「いつもと違うところで弾くと、いつもとは違う音楽になった。」
笹久保が、そうつぶやいた。


平河町ミュージックス実行委員会   木村佐近