2016年11月19日土曜日

平河町ミュージックス第41回 片岡詩乃&鈴木明子 竪琴あそび~おとでつむぐ物語 を聴いた

公演前夜、片岡詩乃と鈴木明子がグランドハープやアイリッシュハープなど、
それに、シェーファーの楽曲で用いる沢山の打楽器を持ち込んだ。
楽し気に準備を進める二人の姿に、ガラスの外を通りがかる人々が足を止める。

開演
二台のグランドハープの弦に二人の指先が絡み
軽快な旋律が飛び出してくる。
47本の弦の上を激しく走る二人の指先を、
聴衆が息を呑んで見つめる。
ベルナルド・アンドレ/パルヴィス

ハンギングチェアに片岡が身をまかせアイリッシュハープを、
そのとなりでサウルハープを膝に抱えた鈴木が長椅子に腰かけて つま弾く。
空間が、哀愁に満ちた響きにしっとりと包まれる
吉松隆/8月の歪んだワルツ、淋しい魚の聖歌、ベルヴェット・ワルツ


「この曲は、オーケストラの中で演奏したことがあり、
良く分かっているつもりでしたが、
ハープだけで全部の音を表現することは難しく、
直前まで試行錯誤を繰り返し、本番を迎えました。」と片岡が前置きし、
シャルル・ペローの童話集がモチーフの楽曲を おとでつむぎ始める。
モーリス・ラヴェル/マ・メール・ロア


休憩のあいまには、
この日のために、自身の楽器を二人に貸し与えた片岡の友人で
打楽器奏者の稲野珠緒が、ハープのまわりに打楽器をならべる。

後半のはじまりは、
デューク・エリントンのことを想いながら創られた楽曲。
本来はソロの曲を、二台で弾き鳴らす。
目を閉じると、ハープが鳴っていることを忘れるほどの、
ジャズの色彩に彩られた旋律。
ベルナルド・アンドレ/デューク

「次に予定していた武満徹の楽曲の演奏は、
著作権の権利をもつ団体から、
ギター三台用の演奏譜面をハープで弾くことが許されず、
演奏を取りやめ、代わりに、
もともと曲数を減らして演奏する予定のシェーファーの曲を
6曲のうちの5曲まで演奏することで代えたい」と、
片岡が、武満ファンへのお詫びを述べた。

怪物退治のギリシャ神話がもとになっている曲は、
ハーピストが打楽器を打ち鳴らしながら、絃をつま弾く特別なもの。
聴いたことのない音がつぎつぎとハープの弦からはじき出され、
そこに金属や木を叩く音が重なる。
途中、片岡が歌声を 紙筒を介してハープの共鳴胴に吹き込んで響かせる。
神秘的な響きに聴衆の目が点になる。
マリー・シェーファー/アリアドネの冠

アンコールに選んだのは 林光・編曲/七つの子
アイリッシュハープとサウルハープが、
穏やかなメロディーを響かせ、
美しい余韻を残しながら、
二人は、絃を離した。

片岡は、すでに平河町ミュージックスで
ヴァイオリンの漆原啓子との共演や、
久一忠之(パーカッション)大植圭太郎(オーボエ)近藤孝憲(フルート)
を引き連れて「おとで夜遊び」を繰り広げた。
今回は鈴木明子と共に「竪琴あそび~音でつむぐ物語」。
登場の度に、いくつもの引き出しから、
予想をはるかに超えた響きを持ち出す。
その響きの秘密を知ろうと、聴衆が演奏後に二人を取り囲んで、
楽器の説明に耳を傾ける。

片岡と鈴木 のつむぐ物語は、
その響きだけでなく、
優雅でありながら、
指先と体全体を使ってはじき出される超絶技巧の様子が、
見る者を圧倒し、驚きさえ感じさせるものであった。
二人の つむぎだした物語の数々は、
美しい響きと鮮烈な残像として、
聴衆の記憶に、永くとどまるに違いない。




平河町ミュージックス実行委員会ワーキンググループ   木村佐近