2014年3月29日土曜日

平河町ミュージックス第25回 山路みほ「山路みほ箏曲リサイタル」 を聴いた

公演当日の午後
箏曲演奏家山路みほが、尺八奏者ボンダルチュク・バヴェルと、
それぞれの音を確かめた。






開演
白い空間の片隅に活けられた七分咲きのさくらの花とともに、
箏の凛とした響きが春の訪れを告げる。
「2つの変奏曲」より「さくらさくら」 / 沢井忠夫 作曲





山路が昨年モスクワ音楽院で指導と演奏活動を行った際の
尺八の学生であったボンダルチュク・バヴェルを紹介。
ロシアではこの20年来、日本の伝統音楽を学ぶ学生が多く、
その感覚と才能は、日本人とは異なる厚みと深さを持っているという。





そのふたりが箏と尺八に向き合う。
江戸時代のはじめに流れていた旋律ながら、
曲名が暗示するように、リズムやテンポが変容し、
斬新な音の構成からなる旋律は、
全箏曲中の白眉とも言える高い芸術性をもつと山路が語っている。
みだれ/ 八橋検校 作曲




YouTubeでさまざまな音楽情報に触れている
モスクワ音楽院の学生達にもっとも人気のあった箏曲。
箏の弦のはじける音色と20余年前に作曲された現代的な旋律に
聴衆が引き込まれる。
風にきけ Part/ 吉崎克彦 作曲




山路は平河町ミュージックス第1回公演にも出演した
箏曲演奏家の第一人者沢井一恵に師事している。
山路は、自身のCD作品のとなりに沢井のCDも並べた。
師匠への想いが伝わる。





休憩の後、
宮城道雄の世界がひろがった。
変幻自在に弦をはじく山路の指先に聴衆が見入る。
数え唄変奏曲/ 宮城道雄 作曲





江戸後期の遊女のはかない希望に生きる女の哀愁を
山路が三味線で弾き語る。
江戸のゆったりした唄の背景に、
平河町を慌ただしく行きかう人々や車がガラス越しに見える。
江戸と今いまの時間が交錯する。
揖枕/ 菊岡検校 作曲






16年前、山路は沢井一恵の演奏するこの曲に感動し、
沢井に師事することを決めた。
運命の出会いを引き寄せたこの曲は、
山路の運命への讃歌なのかも知れない。
讃歌/ 沢井忠夫 作曲






アンコールにこたえ、箏と尺八による小品を演奏。
余韻を残しながら、幕を閉じた。






山路は国内での演奏、教育活動にとどまらず、
文化庁文化交流使として、ロシアをはじめ
世界に邦楽を伝えひろげる活動にもかかわってきた。
さらには邦楽の枠を超えた活動にも取り組むなど、
その旺盛な創作エネルギーが笑顔からもこぼれる。





オーケストラのように多くの音をかさねて
音の厚みを求める西洋音楽にくらべて、
日本の音楽は、まったく逆に、
必要最小限の少ない音のみで表現をする音楽だと、
山路は記している。
虚飾をそぎ落とすことを好む日本人の感性にあう箏の音色が、
江戸から現代にかけてつくられた旋律をともなって、
聴衆の琴線に深く沁み入ったひとときであった。




平河町ミュージックス実行委員会ワーキンググループ   木村佐近