2016年6月25日土曜日

平河町ミュージックス第39回 低音デュオin ROGOBA Ⅱ  松平敬(歌、バリトン)&橋本晋哉(チューバ、セルバン)を聴いた 20160624

公演前夜に引き続き、
公演当日、松平敬と橋本晋哉が念入りに音を合わせる。

開演
「千載和歌集」の中の3つの和歌が、松平の声と橋本のチューバから
低い波音になって空間を揺らし始める。
近藤譲《花橘》(3つの対位法的な歌と2つの間奏)(2013)

橋本の古楽器セルバンの素朴な低音と松平が発する揺らぐ旋律は、
修道院で聴いたミサ曲にも似て、聴衆を瞑想の世界に引きずり込んでいく。
ギヨーム・ド・マショー《ご婦人よ、見つめないで下さい》

クジラは歌うような声を発するという。
バリトンとチューバの色とりどりの低音が、
2頭のクジラが歌い戯れる様子を浮かびあがらせる。
川上 統《児童鯨》(2016)

14世紀の楽曲。
松平の大きな歌声と橋本のセルバンの響きの掛け合いが、
犬が狩りをする様子をダイナミックにあらわす。
ヨハンネス・チコーニア《犬は戸外で》

特異な組み合わせにより、異次元の世界を描き出すキリコの絵と
それを言葉に置き換えるポール・エリュアールの詩を礎にして、
バリトンとチューバという特異な組み合わせが、それぞれ自己主張しながら、
見たことのない世界を創り出すことを意図して作曲されたという。
低音デュオならではの 不可思議な世界に浸る。
湯浅譲二《ジョルジョ・デ・キリコ》(2015)

公演前夜には、作曲家の中川俊郎と川上統が、
当日には、それに湯浅譲二と近藤譲が加わる。
日本の現代音楽を担う作曲家が揃う 稀有な 休憩時間。
そして、会場ロゴバが欧州家具ショップであることから、
開演前と休憩時間には 低音デュオが持ち込んだ
エリック・サティの「家具の音楽」がBGMで流される。

休憩のあと
9世紀と12世紀に作曲された2つの楽曲がつづく。
『ムジカ・エンキリアディス(音楽の手引書)』より《天の王よ》
作曲者不詳《聖マグヌス賛歌「気高く、慎ましく」 》

テーブルにひろげられたバラの花束に雨樋パイプやメガホンそして地球儀・・・等々、
歌の人とは思えない小道具をせわしなく響かせながら松平が歌い、橋本が吹き鳴らす。
作曲者によると、目下のところ この曲を演奏できるのは低音デュオ以外にいないらしい。
中川俊郎 《3つのデュオローグ、7つのモノローグ、31の断片》(2012)

アンコールに 一曲を添えて幕を閉じた。

それぞれが個性的な実力派ソリストであり、
その際だつ声と超絶技巧の響き、2人の表情と会話の端々まで、
「微妙な混ざり合い」が生み出す他に類を見ない特異な組み合わせ。
平河町ミュージックス2度目の出演となる松平と橋本の「低音デュオ」は、
中世から今年初演したばかりの作品まで多彩なプログラムを携えて、
前回にも増して、今宵、聴衆の五感を大きく揺さぶる 記憶に残るひととき となった。



平河町ミュージックス実行委員会ワーキンググループ  木村佐近