2010年7月15日木曜日

第3回を終えて(2)


ヴァイオリン・ソロによる
《冷たい風吹く地上から》は、
ほかの曲とちがって、
階段をのぼったところにある中二階で演奏されました。
演奏者の姿はよく見えません。

音は「どこ」か、高いところから、やってきます。
右手で弓を弾きながら、同時に左手で弦をはじく。
弓の速度を変えて、音色が変わる。
からだのむきを動かし、ひびいてくる方角が変わる。
風が、音を動かしているのかも、
などと、あらためてタイトルを想いだしたりもして。

ハープによって演奏された
《さまよう風のいたみ》は、
もともとピアノのための作品です。
ハープの、
絃をはじくと、
音が生まれ、すぐ減衰し、短く余韻がのこる。
そのさまが、雨音のつづくなか、
雨音と同化したり、異化したりしながら、
一本の「うた」をつむいでゆきます。


演奏家の足下には、
6-7 メートルもの長さがあって、
すこしずつ色あいや紋様が変化してゆくキリムが敷かれています。
《Insomnia 眠れない夜》、
ハープはそのままの位置にいる一方、
ヴァイオリンが動きます。
弾きながら、歩く。
歩きながら、弾く。
キリムのほぼ両端、二カ所に譜面台をたて
ときどき移動します。
音場、とでも呼ぶのでしょうか、
音のひびくところ、方向が変わります。
そして、
音の向き方とともに、
演奏家のうごきに、敷いてあるキリムにも
聴き手の視線はむかいます。

コンサートホールでの、
高くなったステージと客席は分離しています。
それでいながら、
ここではもっと身近に楽器が、演奏があるのです。
その分、
ふつうには耳にはいらない音もしてきます。
とても小さな弓が弦にふれる音、
ちょっとしたノイズ、
ヴァイオリンのむきが変わると、
耳も、お、と反応するのです。
演奏家のうごきによる空気の変化。
複数の演奏家が一緒に音楽を奏でているとき、
こういうことが音だけではなく、
肌でもやりとりされているんだ、
というのがわかるのです。

もうひとつ、大切なことがあります。
先にも記したように、
《Insomnia》は、ふつう、ステージ上で演奏されるわけです。
客席のうしろから、
ヴァイオリニストが演奏しつつ歩いてきて、
また、
最後には帰ってゆく、
というような空間性を味わうことはできません。
聴き手が、ヴァイオリンはどこ?とふりむいたり、
さっきは左のほうから音がして、
いまは、正面から音がする、というようなことも、ないのです。
《Insomnia》をこんなふうに体験できたのは、
今回がはじめてではないでしょうか。

 平河町ミュージックス実行委員 小沼純一

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