2017年4月22日土曜日

平河町ミュージックス第43回 工藤あかね(ソプラノ)孤独のバベル~身体表現をともなう現代無伴奏声楽曲 を聴いた 2017/4/21 

公演前日の夕暮れ時
工藤あかねが一人で現れた。
一とおり歌ったあとは、
声をまもるため、無言で身体表現の所作をたしかめていた。

開演
のびやかで澄みきった歌声が、
一気に
空間をあかね色に染めていく。
高橋悠治 /長谷川四郎の猫の歌

はげしい感情のうつろいを
10種類の声いろを用いて表現し、
ストップウォッチを見ながら、10分間に凝縮させる。
あかね色が鮮やかな十色に変幻する。
ジョン・ケージ /アリア(1958)

7つのオペラから抽出され、抽象化された世界。
作曲家によって、音と所作が厳格に規定されているという。
「作曲家の規定が厳格であればあるほど、その先に歌い手の個性が出る」と 演奏のあと工藤が語った。
カールハインツ・シュトックハウゼン /一週間の7つの歌(1986


休憩の後は、
人間の悪業に神が怒り、人間同士の言葉を通じなくしたというバベルの塔の逸話を6つの言語で歌う。
言語ごとに歌い分けられる旋律の一つ一つの中にも、相容れない気質が混在していて、意思の疎通はそもそも言語以前のものであると暗示している と工藤は言う。
神に代わり、作曲家が各言語に込めた悪意に満ちた音が空間を不気味に揺らす。
マウリシオ・カーゲル /バベルの塔(2002)より イタリア語、英語、ドイツ語、ポルトガル語、ラテン語、日本語

この楽譜は、その解釈を演奏者に一任し、身体的表現を示唆する暗号が盛り込まれているという。
工藤は、一階から中二階までを くまなく使い、それぞれの悲劇の物語を 声と身体の動きに変えて、美しく表現する、
言葉はわからずとも、不思議なことに深い悲しみの感情が伝わってくるようだ。
シルヴァーノ・ブソッティ /声のための観念的バレエ「涙」(1978)

アンコールに、工藤はカーゲルのバベルの塔を、悪意なく、ふつうに歌い、舞台をあとにした。

そこには、澄みわたるソプラノによる現代無伴奏声楽曲が揺さぶりをかけた心地よい空気の余韻と、指先の動きまでもが美しい工藤の身体的表現の残像が残っていた。
この あかね色の空気感と残像は、聴衆の記憶に深く刻まれ、永く残るに違いない。 と 思った。






平河町ミュージックス実行委員会ワーキンググループ   木村佐近








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