2013年9月14日土曜日

平河町ミュージックス第22回 御喜美江 大田智美  「アコーディオン ソロとデュオ」 を聴いた

公演前夜
御喜美江と大田智美が、それぞれの響きをたしかめた。
ほとんどの会話が自然にドイツ語になっていた。
御喜の御主人、名ピアニストのシェンク氏が、
あたたかく見守る。
                           
公演開幕
ふたつのアコーディオンの音が空間に満たされ、
林光のメロディーが、聴衆を一気に包みこむ。
林光・野田雅己編曲/「裸の島」

大田智美のソロがはじまる。
鍵盤ではなく、おびただしい数のボタンを操る
大田の指先に、聴衆の視線が釘付けになる。
林光/「蜜蜂は海峡をわたる」

御喜がひとりで弾きはじめる。
アコーディオンの鍵盤から、
紡ぎだされる響きに聴衆が耳を傾ける。
高橋悠治/「谷間へおりてゆく」

突然、あかりが消えた。
闇に包まれた空間を、
御喜のアコーディオンが震わせる。
ジョン・ケージ/「夢」

「なるべく離れて弾くこと」と書かれた楽譜どおり、
1階に御喜が、中2階に大田が動いた。
ふたつの音が、小気味良く天と地を行き来して響きあう。
試奏のとき、御喜は「空間も楽器なのね」と語っていた。
客席の高橋悠治は、扇子の手をとめて、じっと聴いていた。
高橋悠治/「雪・風・ラジオ」

休憩のあと、
空間が一変した。
その響きは、まるで教会の大きなパイプオルガンのように、
天空から降り注ぎ、空間を大きく鳴らした。
鳥肌が立つ。
J.S.バッハ/「ファンタジーとフーガ ト短調BWV542

御喜のソロがはじまる。
コンクールで13才の少女が弾いた曲に感銘し、レパートリーに加えた曲や、
ヨーロッパへのあこがれを呼び覚ますきっかけとなった曲など、
同じ13才で単身ドイツに渡った御喜自身の姿を重ねて
一つずつ、ていねいに、弾いた。
御喜の眼が一瞬潤んだように感じたのは私だけだろうか。
フィリップ・グラス/「モダン・ラブ・ワルツ」
M.K.オギンスキー/「さらば祖国よ」
M.ルグラン/「シェルブールの雨傘」
A.ピアソラ/S.V.P.」「バチンの少年」「白い自転車」

ふたたび二人が並んだ。
聞き覚えのあるメロディーに
観客が思わずプログラムを読み返す。
なんと「五木の子守唄」から始まった。
いつの間にかピアソラの旋律に流れ込む。
美しく心憎いサプライズ!
A.ピアソラ/「天使へのイントロダクション」「忘却」「エスクアロ」


拍手が鳴り止まなかった。
が、予定していたアンコール曲を弾く余力は残っていなかった。
それほどの渾身の演奏だった。
世界屈指のアコーディオン奏者御喜美江と愛弟子大田智美は、
その輝かしい経歴を感じさせない気さくさと優しさにあふれていた。
そして、時折、眼と眼で合図を交わし合う二人の息の合った演奏は、
聴衆を魅了し続けた。

先端を走る二人はまた、それぞれ自身の演奏を続けながら、
後進の指導にもあたっている。
美しい響きが受け継がれていくことと、
また、ここで二人のアコーディオンが響くことを願いながら、
その笑顔を見ていた。





平河町ミュージックス実行委員会ワーキンググループ   木村佐近











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