2010年7月10日土曜日

平河町ミュージックス第三回公演 漆原啓子、片岡詩乃 ヴァイオリンとハープ~華麗さとかそけさと を聴いた

前日、漆原啓子、片岡詩乃と今回の演目の作曲家高橋悠治が、リハーサルに臨んだ。
念入りに高橋が指示を出す。
「同じテンポにしないでつまずきなさい」「ただ繰り返すのではない」。
偉大なソリストたちは、作曲家の言葉に耳を傾け、一つ一つの音を確かめていた。
厳しい音楽の世界が垣間見えた。
準備は万端。


本番当日、梅雨空。
開演の前から、ガラスのむこうの雨足がしだいに強くなる。
スタッフに緊張が走った。
しかし、漆原のストラディバリウスと片岡のハープの圧倒的な響きが雨音を飲み込んだ。
白い空間が、サン=サーンスの幻想曲で満たされたとき、雨音は感覚の外に消えた。
19世紀末から21世紀までの、イベール、ダマーズ、中島ノブユキ、ペルトの作品を二人の楽器がゆるやかにたどっていく。

小沼純一が「冷たい風吹く地上から」の詩を語り、中二階から漆原の音色が聴こえ始める。
高橋悠治が階下の客席で目を閉じていた。
作曲家は自らが手がけた楽曲が、偉大なソリストによって音に変えられる瞬間をどのように感じているのだろうか。 穏やかな高橋の表情から、その深い思いが伝わってくるような気がした。


「さまよう風の痛み」、ハープのソロが続く。
高橋作品は、前衛的でありながら、優雅な気品にあふれている。
全身をつかってハープを奏でる片岡の動きと音色を、観客が丁寧に追う。

「Insomnia 眠れない夜」、ハープの響きに、場外からヴァイオリンの音が重なる。 漆原は場外から聴衆の中へと移動しながら華麗な音色を響かせる。 漆原の口元から詩の言葉がこぼれ出る。 二つの楽器の響きと、言葉の素晴らしい融合。そして雨音さえも味方につけて、聴衆は感動のるつぼの中に引き込まれた。
高橋悠治の温かい目が二人のソリストを見つめていた。








演奏後、演奏者と聴衆は、演目にあわせてセレクトされたスパークリングワインを楽しんだ。
極上の音楽の余韻で、「眠れない夜」にならないように。







平河町ミュージックス実行委員会ワーキンググループ 木村佐近

2010年6月19日土曜日

平河町ミュージックス第二回 草刈麻紀公演 萩京子VS木々のさざめき を聴いた

梅雨空の雨の音をガラス越しに感じながら、
草刈麻紀のクラリネット、森枝繭子のオーボエ、大澤昌生のファゴットの木管のやわらかな響きが聴衆をとらえた。
おだやかな演奏会のはじまり。

歌役者の彦坂仁美と佐藤久司の歌声と所作が加わる。


人のこころの動きを言葉におきかえた 俵万知や宮沢賢治の詩。
その言葉達に作曲家萩京子が、美しい音をあたえたソング集。
彼らは楽しそうに音を紡ぎだし、
ロゴバの白い空間を余すところなく使いながら歌い上げる。

客席の片隅で、萩京子のやさしいまなざしが見守る。

白い空間が、暗い闇に包まれた。

吹き抜けに浮かんだ中二階から、
メシアン作曲、世の終わりのための四重奏曲「鳥たちの深淵」が聴こえ始めた。
悲しげな旋律。
草刈のクラリネットの音が深い闇の彼方から降りてくるようだ。


白い空間が、明るさを取り戻し、再び宮沢賢治の世界に。
宮沢賢治が妹の死を乗り越えたときにつくった
詩集「春と修羅」第二集 「薤露青」(かいろせい)。
薤露とは、ラッキョウの葉にたまった露の意味で命のはかなさをあらわすもの。
賢治の言葉が美しい旋律と透き通った歌声に乗る。

白い空間は、極上の響きに包まれた。

演奏後、出演者と聴衆は、余韻に浸りながら、ワイングラスを傾けた。
ガラスの向こうの平河町に、そのさざめきがあふれ出していた。






平河町ミュージックス実行委員会ワーキンググループ 木村佐近

2010年6月10日木曜日

コンサートやライヴに行くとき、
ほとんどの場合は「お客さん」として、です。
でも、年に何回かは、
わずかなりとも主催者「側」、になったりします。
平河町MusicSでは、主催者として、初回のステージに接していました。
ゲネプロ-----本番とほとんどおなじようなかたちでおこなわれる、
いわば最後の、通し稽古、ですね-----も途中から参加し、
開場すると、受付周辺に立ち、
開演中もそのあたりから全体を、
聴く、というより、見渡していました。

演奏について、音楽について、はともかく
(予想どおり、でありつつ、予想「以上」でもありました)、
わたしが感じていたのは、会場の雰囲気、空気であり、
お客さまたちの物腰、表情でした。
演奏、音楽を、という以上に、
演奏、音楽が、この場とともにあり、
この空気のなかにあることを楽しんでいらっしゃる、
そんなふうに感じられたのです。
ガラスごしに届いてくる外のノイズも、
うるさく、邪魔してくるもの、というより、
箏の音・音楽にむしろ耳をそばだてるきっかけのよう、
あるいは、
外の音というのはこんなふうになっているものなのか、
と気づかせてくれるよう、
だったのです。
これはわたしのおもいこみでしょうか?

もうひとつ。
いわゆるコンサートホールではない、
北欧家具とキリムをおいている店で、
スタッフは全員、やったことのないことをしている、
というのもあります。
ときには戸惑ったりという表情もないわけではありません。
ぎこちなさだってあります。
それでいて、どこか楽しんでいる、
おもしろがっている、というと語弊がありそうですが、
通常の業務とは違った緊張感とリラックスが心身のなかにある。
それを、身近にわたしは感じていました。
また、
ROGOBAと安井建築設計事務所と、
隣りあったビルで働いていながら、
ほとんどは縁のない会社どうしで仕事をしている社員の方々が、
ここではコンサート運営に、携わっているのです。
まったくの無償、で。
皆さんは、いちおう、実行委員に名をつらねているのでわかっていますけれども、
業務以外にもかなりしなくてはならないことがあります。
そのうえで、10人前後の人たちが一緒に音楽の場をつくっている。
音楽がたとえ好きであったとしても、
開演中にも席を占めて、集中して演奏を聴くわけにはいきません。
それでいながら、ただの仕事、業務ではないかたちでかかわり、
役割分担はあるにしても、ひとつの場をたちあげてゆく。
いいなあ、と、わたしはおもっていました。
こういうかたちで何かに関わることができる、
参与できる、というのが、音楽の、いえ、ひとのいとなみなんだなあ、と。

わたしもその一部に参与できているのか、
いい表情になっていたかどうか、は、わかりません。
そうなっていたらいいな、とおもうばかりですけれど。

平河町ミュージックス実行委員 小沼純一

2010年5月29日土曜日

平河町ミュージックス 第一回公演 平河町の街かどで 沢井一恵 を聴いた

十三絃箏から響く八橋検校作曲「六段」の華麗な音色の余韻に酔いしれる間もなく、
場内の空気が一変した。
聞き耳を立てる。
紀元前5世紀中国の墳墓から出土した五絃琴を国立劇場が復元したという楽器から、高橋悠治作曲「畝火山」の素朴でかすかな音が聴こえてくる。
沢井一恵のつぶやきにも似た言葉が、その音を撫でるかのように重なる。

かすかな音を聴き逃すまいと百人余の聴衆の耳が一斉に沢井の音を追いかける。
その時、いままで、聴こえなかったものが聴こえはじめる。
聴衆が凝らす息の音、ガラス越しに走り去る車の音、道行く人の声、
いつもなら騒がしく感じる音達が、沢井の音と言葉に素直に重なる。

紀元前の中国の人々の前で、この楽器は、絃の音を聴かせるだけでなく、その音の背景にある静寂や木々のざわめき、あるいは神々のつぶやきまでも、人々に聴かせていたのではないか。
敏感になった聴覚に痛みさえ感じながら、そう思った。

沢井は、曲目ごとに異なる絃を使い、演奏する場所を移動した。
北欧家具に囲まれ洗練された空間に、曲目が変わるごとに、それぞれ全く別の世界が現れた。
絃に手の届く位置で、聴衆はいつもとちがう沢井の世界に引き込まれた。



そして、ガラスの外には、いつもの平河町があった。











平河町ミュージックス実行委員会ワーキンググループ 木村佐近

2010年4月14日水曜日

食後の余韻、音のアペリティフ

実行委員長の佐野吉彦です。

平河町ミュージックスが人を結びつけるきっかけとなることを願っています。
人と人との出会いは、さらにあらたな出会いを生み出すもの。
音楽がつなぐ縁は、きっと、そこから素敵な縁を紡ぎだしてくれるでしょう。

昨夜(4月13日)は沢井一恵さんの演奏会でした。筝とオーケストラがどのように出会うのかの興味が尽きないステージでした。知と情。あるいは入れ替わって情と知。沢井さんも、指揮の佐渡裕さんも、性格の異なるグバイドゥーリナと坂本龍一のお二人の近作を、丹念に彫琢していました。そこには、またとない邂逅であるがために、会っている時間が過ぎるのを惜しむかのような、慈しみが感じられました。

さて、第1回(5月28日)が近づいてきました。音楽が奏でられる空間と時間をどのようにかけがえのないものとするか。ここは何よりも沢井さんの想像の翼を思う存分広げていただくとして、おいでいただく方には、心地よく楽しんでいただくために、演奏の心地よい余韻を楽しんでいただくために、いろいろなしつらえを整えておこうと考えています。ぜひ、その夜はゆったりと時間を空けておいでください。

2010年3月27日土曜日

実行委員の小沼純一さんテレビ出演

平河町ミュージックスの実行委員のお一人の小沼純一さんがNHKのテレビに出演されます。

4月3日(土)午後11時45分~0時14分 NHK教育テレビ
「スコラ」坂本龍一 音楽の学校
「J.S.バッハ」バッハは、なぜ“音楽の父”なのか?
ゲスト講師:浅田彰、小沼純一、岡田暁生
演奏:藤原真理(チェロ奏者)
坂本龍一
ワークショップ演奏:東京藝術大学バッハ・カンタータ・クラブ

坂本龍一さんはCDとブックレットによる音楽全集スコラをお作りになっていて、この4月からそのテレビ版が始まる、というわけです。小沼純一さんはこのプロジェクトの中心的存在としてご活躍です。

詳しくはここで。
http://www.nhk.or.jp/schola/index.html

こんな立派な先生が関わっている平河町ミュージックスのほうも、どうぞよろしく。(平井洋)

2010年3月4日木曜日

第2回は草刈麻紀さんの企画で

平河町MusicS第2回は、2010年6月18日(金)19:00に開かれる、クラリネット奏者草刈麻紀さんの企画による木管と歌の夕べです。

単にクラリネットのリサイタルに木管や歌のゲストが加わるなどというものでは全く無くて、このROGOBAの空間だけのために演出、準備された、なかなか贅沢な内容です。

公式サイトに草刈さん御自身による詳細な解説がアップされていますから是非ご覧になってみてください。

この事前の詳細な内容解説などもこのシリーズの趣旨の一つです。

二桁の数しかお入りいただけない本番会場ですし、内容にご興味持っていただけても当日御会場不可能な方も当然いらっしゃるでしょう。

そのためもあり、サイトだけご覧いただいてもお楽しみいただけるようあれこれのお話をなるべく載せるようにしているわけです。

ここで世界初演された曲目のデータや写真なども、後から振り返れば貴重・・・・というくらい長く続くといいですが。

皆様にご来場いただくのはそのためのご支援にも直結します。どうぞ当日のスケジュールチェックしてみてください。(平井洋)