公演前日、
工藤と濱田そして濱元が
ひとつひとつの楽曲を納得のいくまで確かめ、創り上げていく。
公演当日の午後、
作曲家の松平頼暁が、松平作品を演奏する3人のリハーサルを
目を細めながら聴き入っていた
朗々と語りながら、工藤が聴衆の背後から舞台に向って歩み寄り、濱田と濱元の楽器の音色にうた声を重ねていく。800年ほど前の旋律が時空を超えて聴衆の前に立ち現れ、聴衆を包み込む。
ヴァルター・フォン・デア・フォーゲルヴァイデ: Walter von der
Vogelweide 「パレスチナの歌」: Palaestinalied
うた声からはじまる。
哀愁をおびたその声に濱田の笛の音と濱元のはじき出すリズムが絡みつく。
もはや聴衆は聴きなれない旋律の世界に沈み込んでいる。
ジョヴァンニ・ダ・フィレンツェ: Giovanni da Florentia 「わたしは巡礼」: Io son un pellegrin (Ballata)
ひとりで工藤が椅子に身をまかせ無伴奏歌曲をうたいはじめる。
まるでオペラの一幕を観ているようだ。
モートン・フェルドマン: Morton Feldman 「オンリー」: Only(ソプラノソロ)
詩にはきわどい隠喩が込められているとプログラムにあるが、
笛の音と 透き通った声が交互にうたい上げ、美しい情景をつくりだす。
トーマス・モーリー: Thomas Morley 「僕は先にゆくよ、いとしい人」: I goe before my darling
ヤコブ・ファン・エイク: Jacob van Eyck 「美しき娘ダフネ」笛の楽園第1巻より: Doen Daphne d'over schoone Maeght (リコーダー&パーカッション)
トーマス・モーリー: Thomas Morley 「やさしい乙女よ、いざ恋人のもとへ」: Sweet Nymphe come to thy lover
高く舞い上がるうた声、小さく刻むリズム、最後にチャルメラパイプのような笛の音が鳴り響き、聴きなれない世界で聴衆は漂うように聴き入る。
ヤーコポ・ダ・ボローニャ: Jacopo da Bologna 「ディアーナの恋人が」: Non al su' amante (Madrigal)
休憩のあと
トランプを手にした3人がテーブルを囲み、
トランプのカードの解釈を演奏する。
カードのマークは演奏法や音色を、数字はその持続時間を示し、
ジョーカーは全くの即興でおこなう。
脈絡のない言葉と音が錯綜するが、不自然さを感じないのは何故だろう。
松平頼暁: Yori-Aki Matsudaira 「ホワイ・ノット?」: Why not?
濱元がひとり舞台にのこる。
指先から小刻みに繰り出される音の粒が空間にはじける。
演奏の後、タンバリンに似たアラブの楽器「レク」や、
いままでの楽曲に多くでてきたリズムが9拍子であることを解説する。
パーカッションによる即興
こんどは切ない笛の音に続き、うた声が響く。
晩年の作曲家に恋する若き乙女のこころの揺らぎが込められているという。
ギヨーム・ド・マショー: Guillaume de Machaut 「ご婦人よ、二度と戻らぬ貴女に」: Dame, a vous sans retollir 「いやな噂をする人たちが」: Se
mesdisans
濱田がひとりリコーダーを持ち舞台に立った。
変幻自在に吹き渡る笛の音色が空気を切り裂き揺らす。
ときには笛を吹きながら 同時に声色を重ねて吹き鳴らす。
鳥肌が立つ。
廣瀬量平: Ryohei Hirose 「讃歌」: Hymn(リコーダーソロ)
一曲うたいあげ一呼吸おいたあと、工藤と濱元のホーミーがはじまる。
聴衆の鼓膜を揺さぶるホーミーの響きに、
濱田が角笛のような縦笛の音色を重ねる。
ふたたび鳥肌が立ってしまう。
ギヨーム・ド・マショー: Guillaume de Machaut 「甘やかなる麗しの君」: Douce dame jolie 「私は幸せに生きてゆける」: Je vivroie liement
拍手が鳴り止まなかった。
濱田が語り始めた
今年8月14日から埼玉県川口で濱田が主催するダ・ビンチ音楽祭で、今日の3人が出演することを。
メビウスの輪は表にも裏にも切れ目なく繋がってゆくけ れど、今回のアンサンブルもそんな感じ…になりますように。と工藤あかねがプログラムで語ったように、
1170年生まれの作曲家から現代にいたる楽曲が違和感なく繋がり、聴衆のこころをとらえた。
工藤と濱田そして濱元の超絶な才能によって、音楽は時空を超えて際限なく繋がり その繋がりがメビウスの輪のように一つの美しく新しい世界を創り出すことを目の当たりにしたひとときであった。
平河町ミュージックス実行委員会ワーキンググループ 木村佐近
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