2010年11月27日土曜日

平河町ミュージックス第五回公演 漆原啓子、瀬木理央  ヴァイオリンひとつとふたつ~点と線と を聴いた

公演前夜、漆原啓子と、漆原に師事する瀬木理央の、念入りなリハーサル。
漆原は、一音のひずみも聴き逃すことなく、数分毎に弓を止め、指示を出す。
「そこは、もっとしゃべるか、踊るかして。」
「譜面を追わず、空間を感じて弾いて。」
矢継ぎ早の指示を、瀬木はひとつひとつ確実に受け止めていた。


当日、開演を待つ聴衆はいつになく静まり返っていた。
照明が落とされ、白い空間が、闇に包まれる。
「バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番」が
中二階の上から降りてくる。
闇に、ひとつのヴァイオリンの音色が沁み入る。






明かりが灯され、
「イザイの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第2番」がはじまる。
バッハの曲を、200年後のイザイが引用して生み出した旋律。
漆原の奏でる響きに聴衆が耳を傾ける。





後半、
漆原と瀬木のデュオではじまる。
「プロコフィエフの二つのヴァイオリンのためのソナタ」。
前夜からのリハーサルを経て、
二つのヴァイオリンは、まるで見えない糸で繋がっているように、
素晴らしい音を紡ぎ出した。



武満徹の「揺れる鏡の夜明け」。
ヴァイオリンがひとつからふたつになることで、
二つの楽器の間に絶え間ない不思議な緊張と共鳴が生まれ、
聴衆の五感を大きく揺さぶる。



コンサートの最終章は、ふたたび漆原のソロによる
高橋悠治の「七つのばらがやぶにさく」。
高橋が、自ら聴衆として、漆原の音を聴いていた。
演奏の後、高橋が音楽プロデューサーの平井洋に語りかけた。
「楽譜に書き込んであった第7倍音が聴こえた!なかなかこうはいかない。」
簡単には弾き出せないこの音を
高橋の目の前で、漆原が響かせてみせたのだ。
偉大な作曲家の耳は、それを聴き逃さなかった。


この比類の無い音楽の技は、その心とともに、
漆原から瀬木へと、引き継がれていく。
ひとつの点が線になるように。



平河町ミュージックス実行委員会 ワーキンググループ   木村佐近

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