公演当日の夕刻、ル・クラブ・バシュラフの「ウード」奏者で多摩美術大学教授の松田嘉子、「ナイ」と「リク」奏者で作曲家の竹間ジュン、ボーカルの子安菜穂が揃った。PA(拡声装置)のバランスを確かめるために、少し音出しをしただけで、通し稽古はなかった。
開演。
11本の弦をもつ琵琶のようなかたちをした松田の「ウード」と、葦でできた竹間のたて笛「ナイ」の音色が空間を一気にアラブの色に染めた。
「サマイ・バヤティ・ジャディード」(バヤティ旋法による新しいサマイ)
「サマイ・サバ」(サバ旋法によるサマイ 松田嘉子作曲)
竹間のたて笛「ナイ」の即興演奏が続く。
アラブ音楽のサマイというリズムは、様々な旋法(マカーム:音階)からなっていて、西洋音楽の音階にはない中立音程(半音ではなく3/4音など)が使われるのが特徴であり、ピアノの鍵盤では出せない音程が独特の旋律をつくりだすらしい。
子安の歌声が加わった。
チュニジアにつたわる恋愛などを歌う甘く切ない子安の歌声に聴衆が引き込まれていく。
それにしても、開演直前に会場に現れ、通し稽古なしで、これほどまでに3人の息がぴったり合うことに、驚く。
「ワスラ・ハスィン」(ハスィン旋法による組曲)
恋人が去った悲しみを歌う。
サバ旋法の曲は、「悲しみのマカーム(旋法:音階)」と呼ばれ、西洋音楽の短調にアラブの神秘さを加えたような雰囲気。
「ガザーリー・ナファル」(恋人は去ってしまった)
まだ覚えていますか。
移ろいゆく人の心を音に変えたような旋律。
竹間の奏でるタンバリンに似た楽器「リク」が、複雑なリズムを小気味良く叩きだす。
「リッサ・ファキル」(まだ覚えていますか)
休憩なしで、最後の曲を奏でる頃には、聴衆はアラブの響きにすっかり心酔していた。
「インタ・オムリ」(あなたこそ私の人生)
そしてやはり、拍手が鳴り止まなかった。
アンコールにチュニジアの愛の歌を演奏して、幕をとじた。
演奏の後、
ル・クラブ・バシュラフ2013年チュニジア公演ライブ録音CDリリースのお知らせがあった。
オフィシャル・ブログサイトで、CD購入のほか、グローバルな活動の様子をうかがい知ることができるようだ。
http://leclubbachraf.blogspot.jp/
ふだん聴くことのない楽器の響きと旋律、そして歌声を目前にして、西洋音楽が長調と短調による明・暗の感覚で成り立っているのに対して、アラブ音楽は人の情感のゆらぎのような多くの感覚が含まれている印象を受け、予想を超えるカルチャーショックを感じた。
そして何より、日本人でありながら国内外でアラブ音楽を自由にあやつり高い評価を得ているル・クラブ・バシュラフの3人の存在に大きな感動を覚えた。
平河町ミュージックス実行委員会ワーキンググループ 木村佐近
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