日常の中に音楽があり、音楽の中に日常がある。そのあたりまえのような事実をあらためて噛みしめることができたこの日。稲野珠緒さんをはじめとする4人の打楽器奏者とギターの辻さんは、さまざまな家具が置かれるロゴバという空間の見えない部分を切り出してみせた。日常的な風景をさらりと日常的に扱うかのように見せかけながら、気がつけば眼の前の机はステージに貌を変え、階段は梯子となって天に延び、床とキリムは緊張感をはらんで輝きはじめる。そうした転回する風景のなかから隠れていたリズムとハーモニーを掬い出し整えたのは、稲野さんたちの見事な技だったのか、ジョン・ケージや高橋悠治さんたち作曲家の鋭い耳であったのか、それともその場にいる観客の身体であったのか。
そのようにして人が協働してつくりだした新たな価値は、日常を少しばかり刺激し、甘美な香りを残していった。どこにも甘いメロディなんてないけれど、いや、ないからこそ生まれた特別な物語。日常のなかに非日常というものが姿を現わしたということがわかる。でも、考えてみれば日常とは非日常の連続に他ならないものであった。だからこそ、日常をきちんと生き、耳を澄ますことの大事さを想う。音楽が指し示す意味には重いものがある。
平河町ミュージックス実行委員長 佐野吉彦
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