2016年5月23日月曜日

平河町ミュージックス第38回 ソングとアコーディオンとコントラバスの縁日・・・・萩京子の〈協和と不協和〉・・・・ を聴いた 20160520


公演前日の夕刻

萩京子の電子ピアノに、、柴田暦が歌声を重ねた。

 

公演当日の午後

萩と柴田のあとから、コントラバスを抱えて溝入敬三が、

さらにアコーディオンを担いで佐藤芳明が加わった。

通し稽古はなめらかに進む。

 

開演

萩が幼いころより最も親しんだヨハン・セバスチャン・バッハ。

そんなバッハに感謝の気持ちを込めて作曲した曲を電子ピアノで奏でる。

その脇には、北欧家具と、来月の山王祭に先立ち御神輿が鎮座し、

異文化の混ざり合う不思議な感覚に包まれる。

装飾音符は語る その2 バッハに捧げる ピアノソロ/ 以下すべて萩京子作曲

 

これは「調和と不調和」あるいは、「一致と不一致」のダンスです。と

萩が語る楽曲は2001年に、萩の学友 溝入が初演した。

溝入の絃の厚みのある響きは、まるで萩の内面の叫び声のようだ。

DANCE OF ACCORDANCE and DISCORDANCE」~コントラバス ソロのための

                                                         

30余年前から、萩が夢中で作曲したソングの数々を、

柴田が ひときわ甘くのびやかな歌声に置き換える。

すももの歌・・・・・・・・・詩:ベルトルト・ブレヒト 訳:野村修

メッセージ・・・・・・・・・詩:ジャック・プレヴェール 訳:平田文也

唄・・・・・・・・・・・・・詩:ジャック・プレヴェール 訳:小笠原豊樹

青いカナリア・・・・・・・・詩:加藤直

 

1997年にこんにゃく座によって初演されたオペラ『ガリバー』で歌われた歌。

ガリバーが行く先々で巨人になったり小人になったり、

まわりの環境で扱われ方がまるで異なる。

でも「神様に感謝!ちょうどいい大きさで良かった」と。

ガリバーを、いまの自分に置き換えて 聴いていた。

ジャスト・マイ・サイズ・・・詩:朝比奈尚行

 

休憩のあと ソング がつづく

「その詩のシンプルさの前にたじろぎ、なかなか作曲できないでいました」と

萩が回想するほど、平易なことばが深い意味を持ち、鮮明に情景が湧き上がるような詩。

そして、美しい旋律にのせた柴田の澄みわたった歌声が聴衆を包む。

金子みすゞの詩による3つの歌

 ゆめ売り

 明るいほうへ

 このみち

 

萩オペラは別役実の戯曲から出発したという。

萩にとってひときわ大切な楽曲。

別役実の詩による2つのソング

 帽子屋さんの子守唄

 アリスの歌

 

10年前に、本日と同じく、アコーディオン佐藤、コントラバス溝入の演奏により初演された曲。

「直訳すれば『調和と不調和の踊り』とか、『一致と不一致のダンス』。

信頼する二人の演奏家を想定して、調和と不調和の境界線を綱渡りするようなスリリングな音楽を目指して作曲」と、萩は初演プログラムノートに記した。

アコーディオンとコントラバスのための「DANCE OF ACCORDANCE and DISCORDANCE Ⅱ」

 

「横浜こども科学館」で、1980年代の春休みや夏休みに行われた「科学バラエティー・ショー」で、こどもたちに科学への興味を促すようなショー仕立ての演目を数多く作曲した中から選び抜かれた5曲を、萩と柴田、佐藤、溝入の4人で音に変える。

子供の頃のメロディーは意外と記憶に残るもの。この歌を聴いて科学の道に進んだ大人がいるかも知れないと想いながら4つの音を追いかける。

ソング(「科学バラエティー・ショー」より)

 はじめの歌・・・・・・・・詩:山元清多

 まわる、まわる・・・・・・詩:山元清多

 太陽系のうた・・・・・・・詩・山元清多

 コンピューターの歌・・・・詩・山元清多

 空気のうた・・・・・・・・詩・朝比奈尚行

 

アンコールに、

空気のうた を聴衆と一緒にうたい、幕を閉じた。

 

萩は「平河町ミュージックス」に作曲家として、またピアノ奏者として過去にも出演しているが、出演のたびに全く異なる魅力的な演出を見せる。
しかし、音が流れだすと、聞き覚えのある萩の旋律がちりばめられ、やがて萩ワールドの中に取り込まれている自分に気付く。萩と初共演の柴田の美しい声も、古くからの仲間である佐藤や溝入のそれぞれ卓越した才能も、そのルツボのなかに取り込んで、萩色に染め上げる。
電子ピアノとソングとアコーディオンとコントラバスによる楽し気な響きに、100余名を超える満場の聴衆も染められた 楽しい縁日であった。

 

 

平河町ミュージックス実行委員会ワーキンググループ   木村佐近
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

2016年3月5日土曜日

平河町ミュージックス第37回 藤田容子、小林秀子、カティ・ライティネンによるゴールドベルク変奏曲 を聴いた

公演前日と、当日の公演前
藤田容子がヴァイオリンを、小林秀子がヴィオラを、そしてカティ・ライティネンがチェロを携え、三人三様のヨーロッパの香りと共に平河町に舞い降りた。

開演
絃に弓が触れた。
昨年夏に作曲家が訪れた八ヶ岳の自然の様子を音に置き換えた新曲。
聴衆の前で、はじめて藤田のヴァイオリンが優美な響きに変える。
ラファエル・タナー作曲:八ヶ岳(新作初演) 

藤田と30年余の親交のある小林が、
ヴィオラとともに舞台に現れた。
ずっしりとした奥深い響きで、
病身の作曲家ヴュータンが遺作に込めた悲壮感をあらわす。
アンリ・ヴュータン作曲:カプリッチョ

穏やかなチェロを穏やかなカティがあやつり、
ときおり そのチェロを打ち鳴らしながら、
狂おしいほどの響きをはじき出す。
圧巻だ!
藤倉大作曲:エターナル・エスケープ
 
休憩のあと

一時間ほどのバッハの大作に向き合う。
艶やかなヴァイオリンに
安定感のあるヴィオラが重なり、
底流にチェロの響きが流れる。
北欧の椅子に深々と身を沈めながらも、
聴衆は、次々と移ろう三人の動きと三つの響きを
固唾を飲んで 見つめ 聴いた。
なんども鳥肌が立った。
JS・バッハ作曲:ゴールドベルク変奏曲
ドミトリー・シトコヴェツキーによる弦楽三重奏版


輝かしい経歴を経てスイスを拠点にグローバルな活躍を続ける藤田は、
旧知の小林とカティを紹介するために来日した。
三人での演奏は今回が初めてという。

国際的ヴィオラ奏者として知られる小林は、
ドイツを拠点に活躍し、マンハイム音楽大学教授として、
後進の指導にもあたっている。

フィンランド生まれのカティは、
スウェーデン王立歌劇場管弦楽団首席奏者をはじめ、
国際的な演奏活動をおこなっている。

生まれも育ちも異なる、しかし それぞれ破格の才能が
響きを持ち寄り、それらを重ねて 極上の音楽 が生みだされた。
その場所に居合わせ、響きに身をゆだねた 至福のひととき であった。




平河町ミュージックス実行委員会ワーキンググループ   木村佐近













2015年11月21日土曜日

平河町ミュージックス第36回 アリュール 無伴奏合唱の夕べ を聴いた

前日の夜、
声楽以外のプロの器楽奏者による「アリュール」女声合唱団21名のメンバーのうち、
公演に出演する、★を除く18名が、普段の演奏楽器を持たずに現れた。
メンバーの立ち位置を曲目に応じて入れ替え、響きのバランスを念入りに たしかめていた。
ソプラノ
黒尾友美子大出満美★高橋典子坂元陽子
メゾソプラノ
黒尾文恵久保千草中島佳代嶋村順子★杉本真木宮崎香織米納幸子草刈麻紀井口葉子★榊原道子鈴木永子三矢幸子
アルト
田代美穂子井村裕美半田規子広瀬祐子植田彩子

公演当日の夕刻
はじまりはストレッチ体操から・・・であった。
アリュールのボイストレーナー新明裕子の掛け声にあわせ、
上半身から肩、首筋が順にほぐされて、やがて発声練習に入る。

開演
かつて14世紀ごろにスペインの聖地に響いていたであろう旋律が、中2階から、つづいて1階の入り口から、聴こえてきた。
その厳かな歌声は、聴衆の中を巡り、白い空間を聖母マリアへの賛美の色へと一気に染め上げた。
モンセラートの朱い本より「喜びの都の女王」

新明がアリュールの紹介と曲目について語りはじめた。
「主よ、私たちの罪に従って、・・・私たちに報いがあらんことを。」
そして、聴衆は、18の美しい歌声につつまれる。
ジョスカン デ プレ「主よ、私たちの罪に従って」

「ミサ曲は、うつむき加減でなく、もう少し上を向いて明るく歌おうよ。私たちが神の声になる必要はない。ひとの声で歌えば良いのです。」新明がリハーサルで語った言葉を思い出しながら、明るく澄みわたった歌声を聴き、ひとの声のむこうに神を感じる。
眼を閉じると、まるで大聖堂にいるようだ。
バード3声のミサより
「キリエ」、「グローリア」、「クレド」、「アニュース デイ」

政治と経済の絶頂期にあった16世紀のスペインで音楽や美術も黄金時代を迎え、高揚した時代の空気が、宗教曲にも華やかで煌びやかな情感を込めさせたことを、歌声の中に感じる。
ヴィクトリア「ドゥオ セラフィム クラマバントゥ」


休憩のあとの後半は20世紀の作曲家の作品がつづく。
「十字架に架けられたキリストの言葉」と「聖母マリアを讃えたもの」というハンガリーの作曲家の作品は、中世の楽曲のようでもあるが、中世とは異なる現代的な響きが含まれているのを聴き取ることができる。
コチャール「おお、すべての人よ」「栄えあれ、女王よ」

日本の小中学校の合唱コンクールのスタンダードナンバーにもなっている楽曲は、ハンガリーの作曲家により創られた作品。
バールドシュ「ヘンルーダの花が咲いたら」

ハンガリーの子供たちが無理なく歌うことのできる音域のなかに、自然やその恵みへの感謝や祈り、愛やその愛を失ってしまった悲しみ、喜びや孤独などを表現している作品。
アリュールが初めてのアンサンブルコンテストで受賞し、第一回演奏会で歌った思い入れの深い曲を、ここで、のびやかに歌う。
バルトーク「まじない」「さすらい  」「神様がともにおられますように!」

わきおこった大きな拍手にこたえ、
アンコールとして一足早いクリスマスプレゼント曲を残し、譜面を閉じた。
「声楽のプロはアリュールに参加することができません。本業の楽器の演奏だけでも大きな負担で、それに加えてメンバー全員が集まることも大変ですが、10年間続けてこられたのは、一見本業とは関係のないことに没頭することが、結局自分の楽器の創作活動の糧になることを、メンバーひとり一人が一番良く知っているからです。」 と 演奏のあと、平河町ミュージックス3度目登場のクラリネット奏者草刈麻紀が淡々と語った。
それぞれがプロの器楽奏者でありながら、美しい声を持ち寄って創り出す清らかで厳かな響きの中に、さらなる高みを求めて共に集うアリュールの崇高な意志を感じたのは私だけだろうか。




平河町ミュージックス実行委員会ワーキンググループ   木村佐近









2015年10月18日日曜日

平河町ミュージックス第35回 荒井英治  無伴奏ヴァイオリン in ROGOBA Ⅱ を聴いた

公演前日と、金曜日当日の公演前
荒井英治は、念入りにヴァイオリンと向き合い、
その音色が届くところに、奥様の姿があった。



開演
絃に弓が触れ、重く、しかし、艶やかな音が空気を震わせる。
作曲家がイスラエルを旅した直後に書いたという曲は、
空間をユダヤ的な不思議な色彩に染め上げた。
アンドレ・ジョリヴェ:ラ プソディ組曲より
B-アリア & C-インテルメッツォ


心の内面から出てくる叫び声に似た響きからはじまった。
民衆のエネルギーを取り込んだ民族音楽のような旋律に続き、
震えるような激しい弓さばきから はじき出される音 に圧倒される。
グラジナ・バツェヴィチ:無伴奏ソナタ 第2番



のびやかで穏やかな旋律が、しだいに装飾され、細分化され、変化をしていく。
作曲家高橋悠治が満足気な表情で、客席から荒井の音色の変化を追っていた。
高橋悠治:七つのバラがやぶにさく



休憩のあと
高橋の楽曲がつづく。
その譜面にちりばめられた39もの楽譜の断片。
それらをつなぎ合わせて荒井が音楽を紡ぎだす。
高橋悠治:星火



何かに憑りつかれたような激しい不協和音が響いたかと思うと、
穏やかな旋律があらわれる。
それを幾度となく繰り返す。
高橋悠治:冷たい風吹く地上から



反ユダヤが吹き荒れる不安な時代に生きたヴァインベルグによる
ユダヤ音楽の旋律とリズムが、
理性に満ちた平和な空間を、容赦なく揺らす。
ミチェスワフ・ヴァインベルグ: 無伴奏ソナタ 第2番


さいごに、
美しい小品をアンコール曲に加え、弓を置いた。

荒井は、新星日本交響楽団、東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターを長きにわたって歴任し、現在、さらにあらたなステージに立って、より多様な音楽活動に挑んでいる。昨年、平河町ミュージックスにも登場し、初演の曲も含め、今回と同様に普段耳にすることの少ない楽曲を奏でた。




聴きなれて耳に馴染んだ旋律は、心を癒し、思考を緩慢にさせるが、
聴きなれない楽曲は、心のひだに引っかかり、
自身に向き合い、妄想にも似た思考を強要する。

「気安く音楽が手に入り、なんの抵抗もなく享受される日常の中で、
音は何のためにあるのか?音楽は何がどれだけ必要なのか?」
昨年のプログラムに記された荒井の文章を思い出しながら、
今日もまた、荒井の深い思索と、紡ぎだす圧倒的な響きを前に、
妄想にも似た感覚がよみがえってくるのを感じた。




平河町ミュージックス実行委員会ワーキンググループ   木村佐近

2015年9月19日土曜日

平河町ミュージックス第34回 稲野珠緒   稲野珠緒(打楽器)と仲間たち を聴いた

公演前夜
稲野珠緒と仲間たちがあつまった。
安島瑶山は尺八をたずさえ。

稲野と、久米彩音、西村安世は、
さまざまな打楽器を運びこんだ。
仲間たちの放つ音に、期待が高まる。


開演
アフリカの太鼓「ジャンべ」に
稲野の手のひらが触れ、
久米と西村の手が相槌を打つ。
楽譜に踊る小刻みな音符を、3人の手が忠実に音に変えていく。
打音は激しく、ときには繊細に、自在に空間を震わせる。
からだのなかの血が泡立ってくるような
心地よい振動に身を任せ、
聴衆は一気に稲野たちの世界に引き込まれる。
「オコー」/ クセナキス

久米が中二階に移り、「羽衣の舞」の物語を語りはじめる。
安島が尺八の音色を物語にかさねる。
稲野はビブラフォンやマリンバ、そして数々の楽器を打ち分け、
物語の奥深い情景をつくりだす。
語り 横笛 打楽器のための「羽衣の舞」/ 松下功

仲間たちの会話もまた楽しい。
安島が、稲野と大学の同窓生であることや、
尺八について語ったあと、
師匠山本邦山作曲「甲乙」を披露する。

さらに次の曲の作曲家で打楽器奏者でもある神田佳子さん。
「自分で削りだしたサクラの木片からも音楽ができるのが
打楽器曲のおもしろさでもあります。」と。

サクラの丸太を削ってつくった木琴や
おもちゃの木琴の素朴で澄んだ音が
小気味の良いリズムにのって
3人が囲んだテーブルからはじき出される。
メッセージより「木」/ 神田佳子


休憩の静寂を破るように、
異なる音色の3台のスネアドラムが鳴りだす。
6本のスティックが鼓面を目に見えない速さで駆けめぐる。
「ポイント・ポイント・ポイント」/ 田村文生

音を出さない曲が始まった。
聴衆がかりだされ3楽章を3つのグループにそれぞれ振り分けた。
第1楽章のグループが、状況のわからないまま、ドラムを無造作に鳴らし始めてしまった。
音を止める様子もなく、無音の第2楽章にすすむ。
前段のドラムの音がかえって無音を強調することになる。
ケージは作曲の前に、無音室で、2つの音を聴いたという。
一つは神経系の高音。もう一つは血管の血流の低音。
・・・2つの音が聴こえたような気がした。
それにしても、無音の曲さえ、こんなに聴衆を巻き込んで楽しんでしまう稲野と仲間たち。すばらしい!
433秒」/ ジョン・ケージ

稲野がマリンバと向き合った。
マレットが鍵盤の上をはずみ、やわらかな響きに包まれる。
「橋をわたって」/ 高橋悠治

最後に独奏。
パーカッションを前に、後ろのドラムはかかとで打ち鳴らす。
稲野は楽しそうに、笑みさえたたえながら、
しかしその手先や足は正確に複雑なリズムを刻んでいく。
「サイド・バイ・サイド」/ 北爪道夫

4年前の地震の直後、201148
稲野珠緒は久米彩音らの仲間とともに、
この場所で演奏したことがある。
甚大な被害に世の中の空気がよどむなか、
稲野らのはじける演奏を聴いた私は、
その日のブログをこんな風に締めくくった。
「それにしても、
稲野の笑顔は素敵だ。
激しく楽器を叩くときも、強く打つときも、
稲野は体全体で楽しみ、笑みを浮かべる。
打つ、叩き、リズムを刻むことは、
ひとが古来持っている楽しみの一つ。
それを音楽に創り上げる稲野とその仲間たちから、
楽しさが美しい響きとともに伝わってくる。
今日は、元気をもらった。」

4年のあいだに稲野はさらに円熟味を増し、輝いていた。
そして、やはり、
今日も 元気をもらった。




平河町ミュージックス実行委員会ワーキンググループ   木村佐近