萩京子の電子ピアノに、、柴田暦が歌声を重ねた。
萩と柴田のあとから、コントラバスを抱えて溝入敬三が、
さらにアコーディオンを担いで佐藤芳明が加わった。
通し稽古はなめらかに進む。
萩が幼いころより最も親しんだヨハン・セバスチャン・バッハ。
そんなバッハに感謝の気持ちを込めて作曲した曲を電子ピアノで奏でる。
その脇には、北欧家具と、来月の山王祭に先立ち御神輿が鎮座し、
異文化の混ざり合う不思議な感覚に包まれる。
装飾音符は語る その2 バッハに捧げる ピアノソロ/ 以下すべて萩京子作曲
萩が語る楽曲は2001年に、萩の学友 溝入が初演した。
溝入の絃の厚みのある響きは、まるで萩の内面の叫び声のようだ。
「DANCE OF
ACCORDANCE and DISCORDANCE」~コントラバス ソロのための
30余年前から、萩が夢中で作曲したソングの数々を、
柴田が ひときわ甘くのびやかな歌声に置き換える。
すももの歌・・・・・・・・・詩:ベルトルト・ブレヒト 訳:野村修
メッセージ・・・・・・・・・詩:ジャック・プレヴェール 訳:平田文也
唄・・・・・・・・・・・・・詩:ジャック・プレヴェール 訳:小笠原豊樹
青いカナリア・・・・・・・・詩:加藤直
1997年にこんにゃく座によって初演されたオペラ『ガリバー』で歌われた歌。
ガリバーが行く先々で巨人になったり小人になったり、
まわりの環境で扱われ方がまるで異なる。
でも「神様に感謝!ちょうどいい大きさで良かった」と。
ガリバーを、いまの自分に置き換えて 聴いていた。
ジャスト・マイ・サイズ・・・詩:朝比奈尚行
休憩のあと ソング
がつづく
「その詩のシンプルさの前にたじろぎ、なかなか作曲できないでいました」と
萩が回想するほど、平易なことばが深い意味を持ち、鮮明に情景が湧き上がるような詩。
そして、美しい旋律にのせた柴田の澄みわたった歌声が聴衆を包む。
金子みすゞの詩による3つの歌
ゆめ売り
明るいほうへ
このみち
萩オペラは別役実の戯曲から出発したという。
萩にとってひときわ大切な楽曲。
別役実の詩による2つのソング
帽子屋さんの子守唄
アリスの歌
10年前に、本日と同じく、アコーディオン佐藤、コントラバス溝入の演奏により初演された曲。
「直訳すれば『調和と不調和の踊り』とか、『一致と不一致のダンス』。
信頼する二人の演奏家を想定して、調和と不調和の境界線を綱渡りするようなスリリングな音楽を目指して作曲」と、萩は初演プログラムノートに記した。
アコーディオンとコントラバスのための「DANCE OF ACCORDANCE and DISCORDANCE Ⅱ」
「横浜こども科学館」で、1980年代の春休みや夏休みに行われた「科学バラエティー・ショー」で、こどもたちに科学への興味を促すようなショー仕立ての演目を数多く作曲した中から選び抜かれた5曲を、萩と柴田、佐藤、溝入の4人で音に変える。
子供の頃のメロディーは意外と記憶に残るもの。この歌を聴いて科学の道に進んだ大人がいるかも知れないと想いながら4つの音を追いかける。
ソング(「科学バラエティー・ショー」より)
はじめの歌・・・・・・・・詩:山元清多
まわる、まわる・・・・・・詩:山元清多
太陽系のうた・・・・・・・詩・山元清多
コンピューターの歌・・・・詩・山元清多
空気のうた・・・・・・・・詩・朝比奈尚行
アンコールに、
空気のうた を聴衆と一緒にうたい、幕を閉じた。
萩は「平河町ミュージックス」に作曲家として、またピアノ奏者として過去にも出演しているが、出演のたびに全く異なる魅力的な演出を見せる。
しかし、音が流れだすと、聞き覚えのある萩の旋律がちりばめられ、やがて萩ワールドの中に取り込まれている自分に気付く。萩と初共演の柴田の美しい声も、古くからの仲間である佐藤や溝入のそれぞれ卓越した才能も、そのルツボのなかに取り込んで、萩色に染め上げる。電子ピアノとソングとアコーディオンとコントラバスによる楽し気な響きに、100余名を超える満場の聴衆も染められた 楽しい縁日であった。
平河町ミュージックス実行委員会ワーキンググループ 木村佐近