公演前日の夜、
松平敬と橋本晋哉は
作曲家湯浅譲二を迎えて、
言葉と音のニュアンスを確かめていた。
公演当日の通し稽古には、
作曲家山根明季子が、
二人に語りかけた。
幕開けは、
グレゴリオ聖歌/低音デュオ編「我深き淵より」
バリトンとセルバンが空気を低く震えさせ
空間が神聖さを帯びてくる。
鈴木治行「沼地の水」
歌唱とテキスト、そしてチューバの音が、
巧妙に絡み合う。
作曲家鈴木が客席で二人の響きを静かに聴いていた。
パラレリウス/「モンテヌス写本」より「花咲き乱れ」で、
聴衆が肩の力を抜いた後、
ジョン ケージ「二人のための音楽」。
松平が中2階に、橋本が1階をゆっくり移動しながらうたう。
iPhoneで時間を計りながら、
ケージが譜面にしるした記号を正確に音に変えていく。
休憩のあと
セルバンからチューバに
変化をとげた楽器の変遷について、
橋本が、軽妙な語り口で解説する。
山根明季子「水玉コレクションNo.12」
バリトンと正反対の松平のファルセットと
橋本が声を重ねて奏するチューバの重音が、
不思議な響きを刻み、空気を彩る。
作者不詳「セイキロスの墓碑銘」
現存する世界最古の完全楽譜を低音デュオが編曲し初演。
モンゴルのホーミーを思わせる声が、
セルバンの音に溶ける。
湯浅譲二「天気予報所見」
『人間の感情から遠い天気予報のテキストに、
様々な感情表現を音響的に加えた音楽的表現』と
湯浅が語るパフォーマンスに、聴衆は見事に引き込まれた。
空間にひろがりゆく低音は、
聴衆の体の芯まで届き、
何よりも、松平、橋本の飾らない人柄がその低音と相まって、
低音がひとにもたらす本能的な安堵感が
この空間のひとときを支配したように思う。
平河町ミュージックス実行委員会ワーキンググループ 木村佐近